責任能力

心神喪失及び心神耗弱

刑罰を科す根拠は,違反者が自分の行為が違法であることを理解し,その理解に従って自分を制御できるのにあえて犯したことに求められます。自分の行為が違法であることを理解できず(事理弁識能力の欠如),また理解に従って自分を制御できない(行動制御能力の欠落)者に対しては刑罰を科す根拠が失われます。

法では心神喪失者の行為は罰しないと定められています(刑法39条1項)。また,心神耗弱者の行為は,その刑を減刑すると定められています(刑法39条2項)。心神耗弱者は,精神の障害により事理弁識能力又は行動制御能力が著しく欠けている者で,限定責任能力者と言われます。心神喪失者は事理弁識能力又は行動制御能力が欠けている者で,責任無能力者といわれます。

 

責任能力の判断

責任能力の有無は精神の障害という生物学的要件と,事理弁識能力・行動制御能力が欠落しているという心理学的要件の双方を考慮して判断されます。精神に障害があれば当然に責任能力を欠くという訳ではありません。行為者の精神の障害が事理弁識能力・行動制御能力を失わせるもので,実際の犯罪行為のときに,その障害に影響されていたことが必要となります。

影響されていたかどうかは,病歴,犯行の動機や態様,犯行時の病状,犯行前の生活状況,犯行前後の行動,などを総合的に考慮して,判断されます。こうした精神の障害が事理弁識能力・行動制御能力を失わせると認められることは多くはありません。

 

泥酔した場合は責任を負わないか

酔ってやったという弁解はよくありますが,これで責任能力がないとされることはあるのでしょうか。

泥酔といっても程度に差があります。アルコール血中濃度が通常程度の単純酩酊では責任能力に影響はありません。著しい興奮が生じる複雑酩酊,幻覚が生じる病的酩酊の程度に達してようやく精神の障害として責任能力に影響があるかどうかというところです。

 

原因において自由な行為

仮に泥酔の結果責任能力が欠如していたか限定されていたとしても,飲酒の結果酩酊して犯罪行為を行った場合は自ら心神喪失又は心神耗弱状態を招いたといえます。この心神喪失又は心神耗弱状態を招く原因行為について認識があり責任能力に問題がなければ,犯罪結果を起こした結果行為のときに責任能力に問題があっても完全な責任を問うことができます。これは原因において自由な行為とよばれています。

酒を飲んで酔ったら暴れるかもしれないと分かっていながら深酒をし,結果暴れて人に傷害を負わせた場合,傷害を負わせたときに責任能力が欠如していても,完全な責任能力があったとして罪に問われることになります。

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