釈放を認めてほしい・勾留の考慮要素
警察に逮捕されたら,検察と裁判所に送られ,勾留される可能性があります。
勾留は,身体拘束がまず10日間行われ,さらに10日間を限度に延長されることになります。
早期に弁護士を通じて勾留を争い,釈放を求めていく必要があります。
今回は,勾留がどのようなことを検討されて判断されるか,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部が解説いたします。
刑事訴訟法
第60条 裁判所は,被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で,左の各号の一にあたるときは,これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
第207条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は,その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し,保釈については,この限りでない。
勾留は,罪証隠滅や逃亡を防止することを目的としています。
起訴前の被疑者の場合は,検察官から請求されて,裁判官が勾留するかどうかを判断します。
「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」で,勾留の理由(「定まつた住居を有しないとき」「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」)と必要性が認められたら,勾留となります。
「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」は,犯罪の嫌疑が一応認められる程度で十分とされています。
起訴や有罪判決をするのに十分でなくても認められます。
「定まつた住居を有しないとき」は,住所や居所を有しないという意味です。
各地を転々と逃げ歩いていたり,野宿生活を送っていたり,住居を黙秘して他の資料によっても住居が判明しないとき,なども含まれます。
「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」は,証拠に対する不正な働きかけによって,終局的判断を誤らせたり捜査や公判を紛糾させたりするおそれがあるため,最も重視して検討されます。
罪証隠滅が認められて勾留されるケースが最も多いです。
安易に一般的・抽象的に認められるべきではなく,具体的・実質的な検討が求められます。
単なる抽象的な危険性では足りず,確実性までは要求されないが,具体的な資料によって裏づけられた高度の可能性のあることを要します。
罪証隠滅の対象は,犯情や重要な情状事実です。
原則として公訴事実・被疑事実であり,構成要件に該当する事実のみならず,違法性を基礎づけまたは阻却する原因となる事実,責任能力その他責任阻却事由の存否に関する事実も含まれます。
犯行に至る経緯・動機,被害者との関係,凶器の入手経路,犯行態様,共謀の成立過程,犯行後の利益分配や罪証隠滅行為,などについてが考えられます。
薬物犯罪の場合は,薬物の流れや密売組織との関わり合いなども対象となり得ます。
集団的暴力事件の場合は,犯行計画の立案過程,犯罪集団の組織や構成,集団の中で果たした地位・役割も対象となり得ます。
犯罪事実の認定にとって重要な意味を持つか,犯情を基礎づける事実として起訴不起訴の判断や量刑上重要な意味を持つか,で判断されます。
罪証隠滅の態様として,予想される証拠に対する働きかけが不当な影響を及ぼすようなものであるかが検討されます。
共犯者や証人・参考人との通謀,または証人・参考人に対する圧迫などがあります。
属する組織・団体の勢力や団体的統制力を用いて行なわれることが予想される場合もあります。
物証の毀損・隠滅も典型的な罪証隠滅行為です。
罪証隠滅の客観的可能性・実効性が中心的に判断されます。
主観的に罪証隠滅に出る意図があっても,客観的に実行可能でなければ,罪証隠滅はありえません。
被害者が捜査機関に供述した後に死亡しているようなときは,その供述を変更させることは不可能です。
捜査機関によって押収されている証拠を毀損・隠滅したりすることもできません。
証拠に対する具体的な働きかけが予想される場合においても,その働きかけによって罪証隠滅の効果を生じる実効性があると認められなければなりません。
捜査機関により関係者の供述や証拠が保全されているか,罪証隠滅行為によって重要な証拠の保全が妨げられて起訴不起訴の判断に影響を及ぼすおそれがないか,公判において検察官の立証活動が不当に妨害されることにより犯罪事実の認定や量刑に重要な影響を及ぼすおそれがないか,といった観点を総合して判断することになります。
罪証隠滅の主観的可能性,具体的な罪証隠滅行為に出る意図があるかが判断されます。
実際上は,客観的に罪証隠滅の余地が大きく,罪証隠滅行為を容易に行い得る状況にあるときは,罪証隠滅の意図をもたないと認められることは少ないです。
虚偽の弁解や客観的に明らかな事実と矛盾する供述を繰り返したり,追及されると供述を変えたりしているような場合は,罪証隠滅の意図が推認されることが多いです。
当初から一貫して詳細な自白をし,真に反省・後悔した態度を示しているなどという状況は,罪証隠滅の意図のないことを窺わせる根拠となります。
「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」は,刑事訴追や刑の執行を免れる目的で所在不明となることをいいます。
年齢が若い,都会に単身で居住している,職業も水商売などを転々としている,暴力団体の構成員に知り合いの者がいる,などという場合は逃亡のおそれが認められやすくなります。
相当な年齢で,配偶者や子供もいて,これまで長年月定職に就いてかなりの地位に就いていて,住む場所も自己所有の家で,居住期間が長い,などという場合は生活が安定していて逃亡のおそれが認められにくくなります。
事案が重大で非常に重い刑を科されることが予想されること,重い処分につながる可能性のある前科前歴があること,暴力団体の組織との結びつきが強くて組織力を利用して身を隠せること,などが処罰を免れる目的などで身を隠そうとすることを強く窺わせる状況と判断されます。
他に余罪のあることも考慮されます。
被告人の供述態度が悪ければ,逃亡の意図があると認められやすくなります。
勾留の理由があっても,実質的な必要性を欠くときは勾留することは許されません。
勾留の本来の目的に照らして身体を拘束しなければならない積極的な必要性・公的な利益と,その拘束によって蒙る不利益・苦痛や弊害とを比較衡量して,前者が極めて弱い場合や後者が著しく大きい場合は,勾留の実質的な必要性に欠けると判断されます。
最終的な判断は,事案の軽重や勾留の理由の度合・罪証隠滅や逃亡のおそれの強さと相関関係に立つことになります。
事案の重大性,起訴の可能性,捜査の進展度合,被疑者の仕事・家庭・健康等の事情,が具体的に考慮されます。
以上のような勾留の判断要素を具体的に検討して,勾留を争って釈放を求めていくことになります。
釈放が認められるかどうかは,弁護人個々人の能力によって大きく左右されます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,これまで数多くの釈放実績を積み重ねてきました。
釈放が認められるためには個々のケースにおいてどのような主張をすればいいかを心得ております。
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