北海道広尾町の保護責任者遺棄事件にかかる取調べ対応について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務札幌支部の弁護士が解説します。
【事例】
スナックで働いているA子さんは、2年前に離婚し、現在は北海道広尾町の公営団地に3歳の娘と二人暮らしをしています。
2ヶ月ほど前に、スナックの常連客である男性と恋仲になったA子さんは、この男性とデートをするために自宅に娘を置き去りにすることが度々ありました。
夜中になっても子どもの鳴き声がすることを不審に思った近所の住民が北海道広尾警察署に通報して娘は保護されましたが、その翌日からA子さんは警察署に呼び出されて取調べを受けています。
(フィクションです。)
【保護責任者遺棄罪~刑法第218条~】
保護責任者遺棄罪は、老人、幼児、身体障害者、病人等を保護すべき責任のある者が、これを遺棄又はその生存に必要な保護を行わない場合に成立する犯罪です。
この法律は、保護すべき者しか主体になり得ないので、身分犯とされています。
また、この法律でいう「遺棄」とは、被遺棄者を危険な場所に移転させる移置のほか、被遺棄者を危険な場所に置いたまま立ち去る置き去り行為を含みます。
保護責任者遺棄罪の遺棄の要件としては、要保護者は、遺棄されたことによって、その生命・身体に危険が及ぶ状態に陥らなければならないとされているが、この危険は必ずしも具体的な物である必要はなく、抽象的な危険であれば足りるとさせています。
ですから今回の事件の場合だと、自宅に置き去りにされた娘は、警察に保護されたことによって危険を回避することができていますが、この事は、保護責任者遺棄罪の成立には何ら影響しないと考えられます。
逆に、要保護者の生命・身体に危険が認められない場合は、保護責任者遺棄罪は成立しません。
ちなみに保護責任者遺棄罪において保護責任者に必要とされる保護義務は、要保護者の生命・身体を危険にさらしてはならないという義務であって、民法上の扶養義務とは異なります。
例えば
・夫が、妻のもとに幼児を残して失踪する。
・幼児を養育院に託した両親が、養育料の支払いを怠る。
場合などは、保護者が扶養義務を怠る行為ではありますが、それによって要保護者の生命・身体が危険にさらされるわけではないので、保護責任者遺棄罪は成立しません。
【殺人罪~未必の殺意~】
また幼児を置き去りにするという行為形態の場合は、殺意の有無にもよりますが保護責任者遺棄(致死)罪どころか、殺人(未遂)罪が成立することもあるので注意しなければなりません。
みなさんは、長期間にわたって2人の幼児を自宅に置き去りにして死亡させた事件をご存知でしょうか。
この事件は、母親によって、約1ヶ月間もの間、自宅に置き去りにされた幼い子供二人が餓死した事件です。
この事件で逮捕された母親は、後の刑事裁判で、子供に対する未必の殺意が認定されて、殺人罪で有罪(懲役30年)が確定しています。
【保護責任者遺棄事件の取調べ対応】
保護責任者遺棄罪を犯すと、先ほど説明したようなより重大な罪の疑いで捜査が進む可能性が十分ありえます。
この場合、特に重要なのは殺意の有無に関する取調べ対応です。
死亡の事実とは異なり、殺意というのは本来的には行為者の内心に大きく関わるものです。
そのため、取調べにおける供述が重要な証拠の一つとなることも多く、捜査機関としても取調べで厳しく追及するのが通常です。
ですので、取調べ対応をきちんと身につけないと、殺意が認定されて殺人未遂罪や殺人罪の責任を負うことになりかねません。
殺意に関する取調べにおいて、特に注意すべきことが1つあります。
それは、世間一般に言う殺意よりも刑事事件における殺意の方が広い点です。
たとえば、積極的に人を殺害しようとした場合、世間一般にも殺意があったことに争いはないかと思います。
刑事事件では、これに加えて「死ぬかもしれないがそれでも構わない」という場合も殺意があったとみなされます。
保護責任者遺棄事件の場合、殺害を意欲することはなくとも認容することはありえる話です。
捜査機関もその点を突いてくることは考えられるので、自身のケースについて取り調べ対応を弁護士に確認しておくことが得策です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部では、刑事事件に強い弁護士が、豊富な知識と経験に基づき最適な取調べ対応をお伝えします。
ご家族などが保護責任者遺棄罪の疑いで捜査されたら、刑事事件・少年事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部にご相談ください。
事務所での法律相談料は初回無料です。