危険運転致死傷罪について北海道札幌市の刑事弁護・少年事件の経験が豊富な弁護士が解説
自動車事故で最も重い犯罪は、危険運転致死傷罪です。
無謀運転で事故を起こして被害者を死傷させ、逮捕されるニュースが珍しくありません。
ネットニュースでも、以下のような記事が掲載されております。
※一部情報を修正しております。
「バイクに急接近や幅寄せ、衝突して転倒させ…「あおり運転」ドラレコで特定
あおり運転でバイクを転倒させてけがを負わせたとして、容疑者を自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致傷)容疑で逮捕した。
夜、乗用車でバイクに急接近や急減速、幅寄せなどを繰り返し、衝突して、転倒させ、けがを負わせた疑い。認否を明らかにしていない。ドライブレコーダーの映像などからあおり運転の状況を特定した。」
「飲酒運転ではねたか 容疑の男逮捕 死亡ひき逃げ
発生した死亡ひき逃げ事件で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死)と道交法違反(ひき逃げ)の疑いで容疑者を逮捕した。
逮捕容疑は、市道交差点周辺で酒に酔って乗用車を運転し、歩いていた被害者を後ろからはねたまま逃走し、死亡させた疑い。
同日夜に同署に出頭した。「酒に酔って運転し人とぶつかり逃げたことに間違いない」と容疑を認めている。」
危険運転致死傷罪は重い罪であり、実刑で刑務所に長期間入る可能性もあります。
今回は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部が、危険運転致死傷罪について解説いたします。
【危険運転致死傷罪の条文について】
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
(危険運転致死傷)
第2条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
六 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為
七 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
八 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
第3条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。
2 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。
【危険運転致死傷罪の成立要件】
危険運転致死傷罪は、悪質で危険な運転行為を故意に行って人を死傷させる行為について、重罰化を図るために創設されました。
従来の過失犯の過失・不注意という枠組みで評価して軽い刑事処分にすることが相当ではないからです。
車を運転していても、殺意があれば殺人罪、傷害の故意があれば傷害罪又は傷害致死罪が成立しますが、それ以外は本罪が成立し得ます。
【アルコール・薬物を摂取したうえでの危険運転致死傷罪1】
最も問題となりやすいのは、1号の「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」です。
特に飲酒運転が多く問題となっております。
アルコールの影響により正常な運転が困難な状態とは、アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいいます。
その判断にあたっては、事故の態様、事故前の飲酒量や酩酊状況、事故前の運転状況、事故後の言動、飲酒検知結果等が総合的に考慮されます。
運転操作を行うことができない可能性がある状態という程度では足りず、運転の困難性を基礎づける事実が必要となります。
自動車に乗り込むまでの間に足がふらついていたり、運転中のハンドル操作が思うようにできなかったり、運転中に意識がもうろうとなっていたり、泥酔状態で前方の注視が困難になっていたり、他人から酔っぱらっていて危ないので運転しないように注意されたことなどが考えられます。
被疑者の認識としても、運転の困難性を基礎づける事実の認識が必要となります。
アルコールの影響により、前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態であったと認められるかが判断されます。
薬物については、覚せい剤や大麻などの違法薬物に限らず、睡眠薬など、運転者の精神的・身体的能力を低下させて正常な運転が困難な状態を生じさせる薬理作用があるものを含みます。
【スピードを出し過ぎた状態で起こした危険運転致死傷罪】
2号の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」は、速度が速すぎるために道路状況に応じて進行することが困難な状態で自車を走行させることです。
高速度に当たるかどうかは、カーブなどの具体的な道路状況等により判断されることになります。
【運転経験の乏しい者による無免許運転による危険運転致死傷罪】
3号の「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為」は、単に無免許であるだけでなく、自動車運転の初歩的技能すら有しない極めて未熟な場合をいいます。
運転免許を取得しておらず、運転経験がほとんどない人が当たります。
【あおり運転・妨害運転による危険運転致死傷罪】
4号の「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」は、いわゆるあおり運転として社会的に問題となっている行為を処罰するものです。
通行を妨害する目的とは、相手方に対して自車との衝突を避けるために急な回避措置を取らせるなど、相手方の自由で安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいいます。
人又は車に著しく接近とは、割り込み、幅寄せ、あおり、対向車への接近などがあります。
重大な交通の危険を生じさせる速度とは、著しく接近した場合に自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度、あるいは、相手方の動作に即応するなどしてそのような大きな事故を回避することが困難であると一般的に認められる速度の事をいいます。
通常は時速20キロ~30キロであれば当たり得ます。
5号の「車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為」は、走行している被害車両の前方で停止などをした結果として著しく接近することとなる状態を作り出すことをいいます。
6号の「高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為」は、高速道路で相手車両を停止等させて危険を生じさせる行為をいいます。
【信号無視による危険運転致死傷罪】
7号の「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」は、不注意で見逃したというレベルではなく、停止することが可能であるにも関わらずあえて運転した場合をいいます。
【標識無視による危険運転致死傷罪】
8号の「通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」は、車両通行止め道路や一方通行道路の逆走などがあたります。
【アルコール・薬物を摂取したうえでの危険運転致死傷罪2】
3条1項の「アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り」の前半の状態は、正常な運転が困難な状態には至っていないが、アルコール等の影響で自動車を運転するのに必要な注意力・判断能力や操作能力が相当程度低下して危険な状態のことをいいます。
酒気帯び運転に当たる程度のアルコールが体内に残っていればこれに当たり得ます。
【持病がある運転手による危険運転致死傷罪】
3条2項の「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り」の前半の状態とは、病気があるだけではなく、病気のために運転に支障が生じるおそれがある状態であり、本人がそのことを認識していることが必要です。
病気としては、統合失調症、てんかん、再発性の失神、低血糖症、そう鬱病、睡眠障害、があります。
【弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部の紹介】
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部は、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
当事務所は、これまでに過失運転致死傷罪・危険運転致死傷罪での弁護活動を数多く経験してきました。
北海道札幌市にて、家族が危険運転致死傷罪で逮捕・勾留された場合、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部にご連絡ください。