違法な取調べで作成された調書を破ったら?
被疑者を逮捕していないにも拘わらず、逮捕と同視し得るような状態において行った違法な取調べによって作成された調書の法的性質とそれを破った場合の問題点について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部が判例を踏まえ解説致します。
【事例】
北海道虻田郡俱知安町在住のAさんは、北海道内を管轄する警察官によりとある嫌疑をかけられ、任意同行を求められました。
Aさんは身に覚えはなく任意同行には応じないと説明しましたが、警察官は令状なしに強引に警察署に連行し、Aさんが帰りたいと言ったにもかかわらず取調べを行いました。
最終的に警察官は供述調書(弁解録取書)を作成し、それを読み上げAさんに署名捺印を求めたところ、Aさんはこんな供述調書は違法で無効であるとして憤り、警察官が作成した調書を破りました。
≪最判昭57・6・24の判例を土台にしていますが、地名等はすべて変更しています。≫
【違法な取調べで作成された調書も公用文書に当たる】
今回Aさんの行為で問題となるのが、警察官が作成した供述調書(弁解録取書)を破ったという点です。
警察官は地方公務員であり、公務員が作成した文書を毀棄した場合、一般人が作成した契約書などを破棄する行為に比べ、重い罪である公用文書等毀棄罪が成立します。
条文は以下のとおりです。
(公用文書等毀棄)
刑法258条 公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
よって、Aさんは仮に無実の罪で違法な取調べを受けていたとしても、供述調書を破ったことで公用文書等毀棄罪(あるいは公務執行妨害罪)に問われることになり得ます。
しかし、違法な取調べで作成された供述調書は公用文書には当たらないのではないか、という点が問題となります。
これについて、原判決(高等裁判所の判決)では違法な取調べの過程で作成された供述調書を破いた場合、公用文書等毀棄罪は成立せず、被告人は無罪としました。
しかし最高裁判所は、取調べの違法性については直接の言及を避けつつ、その作成の過程で違法性が認められる場合でも、既にそれが文章としての意味・内容を備えている以上は、公用文書に当たるとして、それを毀棄した(破いた)被告人には公用文書等毀棄罪に問われるとしました。
【違法な取調べを受けたら冷静に弁護士に相談】
とはいえ、違法な取調べ(違法と疑われる取調べ)によって作成された供述調書については、証拠能力に疑義が生じ裁判で証拠として採用されないことが考えられます。
では、違法な取調べ受けた場合にはどうすれば良いでしょうか。
Aさんのように感情的になって供述調書を破るようなことはせず、供述や供述調書等への署名捺印は拒否することが望ましいと言えます。
そして、逮捕等されていなければ、すぐに弁護士に相談し、取調べに違法性がないかを検討したうえで、
・弁護人面前調書をつくるなどして証拠保全に努める
・弁護人から警察署長や警察本部に対し抗議する
・刑事裁判になった場合に証拠能力を争う
などの対応が必要となります。
北海道虻田郡にて、違法な取調べを受けた可能性があるという場合、公用文書等毀棄罪に当たるような行為をすることなく冷静に対応したうえで、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部の弁護士による無料相談・初回接見サービス(有料)をご利用ください。