今回は、海外で預かった粉末を覚醒剤と知らずに日本へ輸入してしまった場合の弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部の弁護士が解説いたします。
~ケース~
Aさんは海外旅行中、現地で仲良くなったA2から、「日本の知り合いに特産物の塩を届けて欲しい。交通費くらいは出しましょう」と頼まれ、塩の入ったケースを受領しました。
日本での交通費として、日本円に換算すると1万円ほどの通貨も受け取っています。
Aさんが帰国すると、税関検査において「塩の入ったケース」の中から覚醒剤の粉末が発見されたため、Aさんは営利目的覚醒剤輸入及び関税法違反の疑いで札幌方面千歳警察署に逮捕されてしまいました。
Aさんの旅行先の特産物は確かに塩であり、Aさんとしては「塩の入ったケース」から覚醒剤が発見されたことは青天の霹靂です。
Aさんはどうすればよいのでしょうか。(フィクションです)
~Aさんに成立しうる犯罪は?~
Aさんには、覚醒剤取締法違反の罪(営利目的輸入の罪)、関税法違反の罪(禁制品輸入未遂罪)が成立する可能性が高いと思われます。
~覚醒剤の営利目的輸入の罪~
覚醒剤の営利目的輸入の罪は、営利の目的で、覚醒剤を、みだりに、本邦に輸入する犯罪です。
法定刑は無期若しくは3年以上の懲役、又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金となっています(覚醒剤取締法第41条2項)。
営利目的による覚醒剤の輸入行為は大変な重罪であり、裁判員裁判法第2条1項1号により、裁判員裁判対象事件とされています。
~関税法違反の罪~
関税法第69条の11第1項1号は、覚醒剤、覚醒剤原料を輸入してはならないとしており、これに違反すると、関税法第109条1項により、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処せられます。
これらの刑罰が併科(同時に科される)されることもあります。
~裁判員裁判について~
営利目的の覚醒剤輸入罪は、裁判員裁判対象事件なので、複雑かつ重い手続に服さなければなりません。
裁判員が参加している、という点も、負担に思われるかもしれません。
~Aさんが塩と誤信していた点について~
Aさんはケースの中身すべてが旅行先の特産物である塩と認識していました。
犯罪の成立には原則として「故意」が必要です(過失●●罪のように、過失犯が処罰される場合もあります)。
そのため、Aさんにおいて覚醒剤を輸入しているとの認識はなかったことを明らかにすることができれば、無罪判決または不起訴処分を獲得することができます。
~想定される弁護活動~
ただし、「知らなかった」と言えば通用するほど甘くはありません。
もちろん取調べで「覚醒剤とは知らなかった」と供述する必要はありますが、他にもAさんにとって有利な事情を積み重ね、検察官や裁判官にアピールする必要があります。
ケースのような事件においては、「故意」がしばしば争われます。
故意がなかったと説得的に主張するには、故意がなかったということを合理的に説明できる有利な事情が必要です。
(ケースにおける有利な事情)
ケースの場合はどうでしょうか。
有利な事情の一つとして、Aさんの旅行先の特産物が塩であったことが挙げられるでしょう。
海外旅行のお土産として現地の特産物を持ち帰ることはよくあることです。
その点を考慮すれば、Aさんがケースの中身すべてにつき「塩」であると認識したことは十分合理的であるといえるかもしれません。
二つ目に、A2から受け取った報酬の額が1万円と低廉であるという点です。
報酬の額が100万円であるなど、非常に高額であれば、違法な物件を運ぶためにお金を渡されているのだ、とみられる余地もあります。
しかし、1万円は国内における交通費として妥当と考えられますし、1万円を得るために裁判員裁判対象事件となるような重大事件を起こすことは到底考えられない、と主張することもありうるでしょう。
このように有利な事情を積み重ねていき、故意を否定する弁護活動を行っていくことになります。
~逮捕されたらすぐに弁護士に相談~
説得的に故意を否定する弁護活動を展開するには、刑事事件に熟練した弁護士の力が役立ちます。
まずは弁護士の接見を受け、有利に事件を解決するためのアドバイスを受けましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
ご家族が営利目的覚醒剤輸入罪、関税法違反の罪で逮捕されてしまった方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部にご相談ください。