窃盗罪について
万引き等の窃盗罪を犯してしまい,弁護士に相談・依頼をする人が少なくありません。
今回は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所札幌支部が,窃盗罪について解説いたします。
【窃盗罪の条文】
(窃盗)
第235条 他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
【窃盗罪の保護法益】
窃盗罪の保護法益は,財物に対する占有・所持です。
社会における財産的秩序は,所有権等の本権の存否自体よりも,占有が有する本権推定機能に対する信頼を考礎にしていることから,財物の所持自体が保護されるべき対象であるとされております。
刑法第242条も,「自己の財物であっても,他人が占有し,又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは,この章の罪については,他人の財物とみなす。」と規定しております。
法令上所持を禁じられている物でも,法律上正当にこれを所持する権限を有するかどうかを問わず,物の所持という事実上の状態それ自体が独立の法益として保護されることになります。
権原に基づかない所持の侵害についても占有侵害の構成要件該当性を肯定した上で,自己の財物や権利に基づく奪取行為の可罰性は違法性阻却の問題として処理されることになります。
【窃盗罪の客体(対象となる物)】
客体は他人の占有する財物です。
共同占有物・共有物の場合は,共同占有者の1人が他の者の占有を排除して自己の単独占有に移せば,その限りで占有の侵害があることになります。
他人の占有・所持は,人が物を実力的に支配する関係があれば認められます。
事実上の支配があるとするためには,主観的要素としての支配意思と,客観的要素としての支配の事実が必要です。
支配意思は,物を事実上支配・管理しようという意欲・意思のことをいいます。
支配意思は,個々特定の財物に向けられた具体的なものであることを必要とせず,時間的・場所的に包括的なもので足ります。
自宅や倉庫内に存在する財物についても,その存在を具体的に知らなくても,不在のときも支配意思が認められます。
支配の事実は,現実の握持を必要とせず,財物自体の特性,支配者の支配の意思の強弱,距離等による客観的・物理的な支配関係の強弱,等の実質的基準で判断されます。
置き忘れられた物については,時間的・距離的間隔やその他の事情を総合的に考慮のうえで判断されます。
占有が認められない場合は,占有離脱物横領罪等の成否が問題となります。
【窃盗等罪の例外(親族相盗例)】
刑法第244条第1項により,配偶者,直系血族又は同居の親族との間で窃盗罪を犯した者は,その刑を免除されることになります。
同条第2項により,第1項に規定する親族以外の親族との間で犯した窃盗罪は,告訴がなければ公訴を提起することができません。
これは,家庭内のことは出来るだけ国家権力が介入するべきではないとの価値観に基づいているからです。
そのため,同条第3項により,親族でない共犯については適用しない,と規定されております。
【窃盗罪の着手の時期】
窃取とは,財物の占有者の意思に反して,その占有を侵害し,自己又は第三者の占有に移すことです。
手段・方法は問われません。
実行の着手は,他人の財物の占有を侵害する具体的危険が発生する行為を行った時点で認められます。
具体的事案において判断する場合には,対象となる財物の形状,窃取行為の態様,犯行の日時・場所等の諸般の状況が考慮されることになります。
侵入窃盗では,財物の物色行為のあった時点で着手が認められることが多いです。
もっとも,倉庫や金庫室などの場合は,侵入行為があった時点で占有侵害の危険が現実化しているものと見ることができるから,侵入行為をした時点で窃盗の実行の着手を認めることが多いです。
車上狙いや自動車盗の場合も,ドアの開扉・解錠や窓ガラスの破壊等,自動車内への侵入行為を始めた時点で着手が認められることが多いです。
窃盗の既遂時期は,財物の他人の占有を排除して自己又は第三者の占有に移した時点で認められます。
具体的事案における既遂時期の判断に当たっては,対象となる財物の形状,窃取行為の態様,犯行の日時・場所等の諸般の状況が勘案されることになります。
目的物が大きい場合には,目的物の性質・大きさや周囲の状況・管理者による強さの度合い等により事実上の支配があったといえる時点が変わってきます。
【窃盗罪の故意(不法領得の意思)】
窃盗罪の故意として,財物の占有者の意思に反して,その占有を侵害し,自己又は第三者の占有に移すことについての認識が必要です。
故意の他に,不法領得の意思が必要となります。
不法領得の意思とは,「権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従って利用し又は処分する意思」をいいます。
権利者排除意思は,使用窃盗・一時窃盗を窃盗罪として処罰しない機能を果たします。
利用処分意思は,毀棄隠匿罪と区別する基準としての機能を果たします。
しかし,自動車を一時的に使用する意思だったとしても,自動車の価値の大きさから権利者排除意思が認められ,不法領得の意思が認められることになります。
また,経済的用法については,その物の本来の用途にかなったとか,財物から生じる何らかの効用を享受するということで足ります。
【罪数の問題】
窃盗罪が既遂となったら,犯罪は終了して違法状態が継続していることになります。
この段階で犯人が目的物を損壊したり費消したりしても,それは既に窃盗罪によって包括的に評価されているので,不可罰的事後行為として器物損壊罪や横領罪を構成しません。
しかし,窃盗罪では評価され尽くしていない新たな法益侵害を伴う場合は,別個の罪が成立することになります。
【窃盗罪での弁護活動】
窃盗罪を犯してしまったら,被害者に対する示談活動が必要になります。
当事者同士で直接話し合うと,感情的になってしまい,状況が悪化して話がまとまらなくなる可能性があります。
また,きちんとした示談書面を作成しないと,後に問題が残ってしまう可能性があります。
被害者から過剰な賠償を請求される可能性もあります。
弁護士を入れて,被害者に対して誠意ある示談交渉を冷静に行う必要があります。
逮捕されたら,釈放を求めていくことになります。
証拠隠滅や逃亡のおそれがないことを,弁護士を通じて主張していくことになります。
被害者に対して示談を成立させたり,家族が身元引受人になって監督してもらったりして,準備することになります。
検察官や裁判官は簡単に釈放を認めないので,弁護士を通じてしっかりした主張・説明をしていかなければなりません。
起訴されて裁判となったら,公判の準備をしなければなりません。
示談・被害弁償を進め,2度とこのような事件を起こさないようにしていくことを示していきます。
家族に情状証人になってもらったり,仕事や家庭の環境調整を進めることになります。
もし窃盗をしていないにも関わらず犯行を疑われたら,きちんと否認主張をしていかなければなりません。
捜査機関,特に警察官は,否認の主張を無視して,取調べで威圧したり不当な誘導をしてきたりすることがあります。
状況に応じて黙秘したり,取調べでの弁護士の立会い・準立会いを行ったり,捜査機関に対して抗議書面を送ったり,弁護士による弁護人面前調書を作成したりして対応することになります。
起訴されて裁判となったら,公判前整理手続を含めて証拠を精査して,きちんと争っていく必要があります。
刑事弁護に精通した弁護士が対応する必要があります。
当事務所では,無料相談を実施しております。
刑事弁護はスピードが重要ですので,お早めにご連絡・ご相談ください。